給与振込先の銀行を、会社指定の銀行にすることってできるの??

こんにちは!
埼玉県新座市の助成金に強い「福田社会保険労務士事務所」代表の福田です!
本日は、過去にご相談があった事例について、ご覧の皆様にもお役立ていただくために、Q&Aをお届けしたいと思います。
社労士 福田過去のご相談事例を、
皆様の労務管理にも
お役立ていただけたら幸いです!
給与振込先を会社が一方的に指定し、従業員に強制することはできません。
理由は、労働基準法に定められている「賃金支払いの原則」に反する可能性があるためです。
- 本人の同意
- 労使協定の締結
ただし、この2つを満たせば、実務上は会社指定に近い運用も可能です。詳しく見ていきましょう。
なぜ給与振込先の銀行を、会社指定の銀行に強制できないのか?
Q:給与の振込について、振込手数料や事務作業の抑制といった観点から、会社の指定する銀行にしたいと考えておりますが、従業員に強制することはできますでしょうか?
新人人事部 S郎う~ん、強制っていうのが
引っかかりますねぇ。
社労士 福田良い直観ですねー!
従業員本人の同意があるかが
ポイントになります!
A:まず、賃金には「賃金支払いの5原則」というものがあり、その中の「通貨払いの原則」では給与を通貨以外のもので支払うことは認められていません。
ただ、「通貨払いの原則」には例外があり、給与を金融機関の口座に振込で支払うことについては、一定の条件を満たす場合に認められています。
賃金支払いの5原則とは?
賃金支払いの5原則とは、労働基準法第24条で、従業員へ賃金が確実に支払われるように5つの原則を定めたものです。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 通貨払いの原則 | 原則は現金払い |
| 直接払いの原則 | 本人へ直接支払い |
| 全額払いの原則 | 控除は原則不可 |
| 毎月1回以上払い | 月1回以上 |
| 一定期日払い | 支払日は固定 |
労働基準法第24条では、以下の通り定められております。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
労働基準法 第二十四条
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
銀行振込が認められる3つの条件
「通貨払いの原則」の一定の条件というのは、以下の3つになります。
- 「従業員本人の同意」
- 「本人の指定する金融機関の本人名義の口座」
- 「賃金支払日の午前10時には全額を引き出すことができる状態にあること」
こちらの条件の②にある通り、従業員本人が指定する口座に振り込むことが条件となっていますので、会社の都合で金融機関を指定することはできません。
ただ、従業員に対して協力を仰ぎ同意してもらったうえで、会社の希望する金融機関に口座を作ってもらうことは問題ありません。
新人人事部 S郎うちはメインバンクを統一したいんですが、それでもダメなのでしょうか?
社労士 福田お願いは可能ですが、強制はできません。あくまで“同意”が前提です。
新しく口座を開設してもらうのは従業員にとって手間になりますので、協力を得られるような説明を行うことが重要です。
会社指定の銀行にするための正しい2つの手順
会社指定の銀行にするための実務上の正しい2つの手順について、解説していきます。
- 従業員本人の個別同意を得る
- 労使協定を締結する
手順1:従業員本人の個別同意を得る
まずは従業員本人の同意が大前提となります。
給与の支払方法は、労働基準法により「通貨による手渡し」が原則とされています。銀行口座への振込は、あくまでこの原則の例外として認められている方法です。そのため、口座振込に同意していない労働者に対し、会社が一方的に振込を強制することはできません。
また、労働基準法施行規則では、給与の口座振込について「労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する労働者の預貯金への振込みによる方法」と定められています。つまり、振込先口座の選択権は労働者側にあり、会社が特定の金融機関や支店を一方的に指定することは、法令に反する取り扱いとなる可能性があります。
第七条の二 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。ただし、第三号に掲げる方法による場合には、当該労働者が第一号又は第二号に掲げる方法による賃金の支払を選択することができるようにするとともに、当該労働者に対し、第三号イからヘまでに掲げる要件に関する事項について説明した上で、当該労働者の同意を得なければならない。
労働基準法施行規則 第七条の二
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み
もっとも、「〇〇銀行を推奨する」といった協力依頼を行うこと自体は問題ありません。ただし、それに強制力はなく、労働者が別の金融機関を指定した場合には、会社は原則としてその指定に従う必要があります。
なお、口座振込を行うためには労働者本人の個別の同意が必要です。同意は口頭でも有効とされていますが、後のトラブル防止の観点から、書面で取得することが望ましいでしょう。口座振込同意書には、対象となる賃金の範囲、金融機関名・支店名、口座番号、名義人、振込開始時期などを明確に記載しておくことが重要です。
手順2:労使協定を締結する
次に労使協定を締結も一般的に求められています。
「労使協定」とは、使用者(会社)と労働者の過半数を代表する者などが締結する協定です。会社に労働組合があるのなら、その代表者と締結を行います。
労使協定には、労働基準法上で締結が義務付けられているものが14種類あり、たとえば時間外・休日労働に関する協定(いわゆる36協定)や賃金控除に関する協定などがこれに該当します。これらは、締結することで労働基準法違反の罰則を免れる「免罰効果」が与えられる点に特徴があります。一方で、給与の口座振込に関する労使協定は、この14種類には含まれておらず、締結しなければ直ちに罰則が科されるという性質のものではありません。
では、なぜ口座振込に関する労使協定が必要とされるのでしょうか。これは、労働基準法が定める「通貨払いの原則」の例外として口座振込を認めるにあたり、労使間であらかじめルールを明確にしておくことが望ましいとされているためです。厚生労働省の行政通達や実務上の運用では、円滑な給与管理の実現や、振込方法をめぐるトラブルの未然防止の観点から、労使協定の締結が求められています。つまり、法令上の厳格な義務というよりも、適正な労務管理を行うための重要な手続きと位置付けられています。
協定書には、口座振込の対象となる労働者の範囲、対象とする賃金の種類、取扱金融機関の範囲、振込の開始時期などを具体的に記載します。都道府県労働局がひな型や記入例を公表している場合もありますので、それらを参考にしながら作成するとよいでしょう。
締結の相手方は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者となります。なお、労使協定が締結されていない場合でも、個別の同意があれば直ちに違法となるわけではありません。しかし、制度を明確にし、後々の紛争を防ぎ、事務を円滑に進めるためにも、労使協定の締結は強く推奨されます。
実務で行うべきチェックリスト
これを踏まえて、実務で行うべき5つのチェックリストをまとめました。
- 給与振込同意書を取得している
- 労使協定を締結している
- 就業規則に記載がある
- 手数料控除をしていない
- 入社時に説明している
賃金支払いの5原則の違反例・罰則
賃金の支払いについては、労働基準法で定められた「賃金支払いの5原則」を守る必要があります。次のようなケースは、それぞれの原則に違反するおそれがあります。
| 違反例 | 違反内容 |
|---|---|
| ① 通貨払いの原則の違反例 | 労働協約などの定めがないにもかかわらず、賃金の一部を自社株式など現金以外のもので支払った。 |
| ② 直接払いの原則の違反例 | 本人ではなく両親や配偶者の口座に賃金を振り込んだ。 |
| ③ 全額払いの原則の違反例 | 会社が一方的に損害賠償金などを差し引いて賃金を支払った。 |
| ④ 毎月1回以上の原則の違反例 | 資金繰りの都合を理由に賃金の支払いを1か月分飛ばし、翌月にまとめて支払った。 |
| ⑤ 一定期日払いの原則の違反例 | 賃金の支払日を明確に定めず、「月の後半頃」などと曖昧な運用をし、実際の支給日が毎月ばらばらになっている。 |
これらの原則に違反した場合、事業者は労働基準監督署による行政指導の対象となるほか、労働基準法第120条第1号に基づき「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
さらに、休業手当の支払義務(第26条)、残業代の支払義務(第37条)、減給の制限(第91条)など、労働基準法の他の規定に違反した場合も、行政指導や刑事罰の対象となることがあります。賃金に関するルールは、企業経営の根幹に関わる重要事項ですので、十分に理解し、慎重に運用することが求められます。
新人人事部 S郎知らずにやっていたら危なかったですね…
社労士 福田労務は“予防設計”が大切です。今のうちに整えておきましょう。
よくある質問
本人への丁寧な説明と制度設計が不可欠です
賃金の支払いは、労働基準法において「通貨払い」「直接払い」「全額払い」「毎月1回以上払い」「一定期日払い」という5つの原則が定められており、企業はこれを厳格に遵守する義務があります。これらは単なる形式的なルールではなく、労働者の生活を守るための根幹的な制度です。
近年では、2023年4月の法改正により、一定の要件を満たせば資金移動業者の口座への「給与のデジタル払い」も可能となりました。しかし、これはあくまで例外的な仕組みであり、労使協定の締結や労働者本人の個別同意が必要です。また、希望しない労働者に強制することはできず、銀行口座など従来の支払方法も必ず選択肢として確保しなければなりません。
さらに、賃金からの控除や支払日の運用、支払方法の変更など、実務上の些細な判断が法違反につながるケースも少なくありません。違反した場合には、労働基準監督署による是正指導や、罰金などの法的リスクが生じる可能性もあります。
賃金に関するルールは、企業の信頼性や労務管理の適正さを測る重要な指標です。制度の趣旨を正しく理解し、就業規則や賃金規程を定期的に見直しながら、適切な運用を行うことが求められます。特に新たな制度を導入する場合には、メリットだけでなくリスクも踏まえた上で、丁寧な説明と慎重な手続きを行うことが不可欠です。
賃金管理は「支払っているから問題ない」というものではなく、「法令に沿って適正に運用できているか」を常に確認する姿勢が重要です。企業経営の基盤を支える重要事項として、継続的な点検と改善を行っていく必要があります。
正しい知識を身につけ、安心して働ける環境づくりを進めていきましょう。お気軽にお問い合わせいただければ、貴社の状況に合わせた適切なアドバイスや支援をご提供いたします。
スタッフ M子労務に関するご相談が
ございましたら、お気軽に
お問い合わせくださいね!



